電子書籍への個人の参入は遅いのか?という話

この記事の所要時間は約 5 分 です。

[まとめ買い] 銭

”実は同人誌は、とてつもなく効率がいい商売なんですよ”

というのは、鈴木みそ氏の銭 弐巻からの引用であるが、商業出版のように出版社を通さずに本が出版できるという状況は、個人の執筆者にとっては、大きなチャンスだと思う。

鈴木みそ氏も、紙媒体での一般的な出版における位置づけとしては、失礼ながら、知る人ぞ知るマイナー作家であったわけだが、上記の同人誌の論理をそのまま電子書籍の世界に持ち込んで、成功した。

このあたりの話は、「「銭」の作者が実現してみせたKDPビジネス」で述べたが、ここでは改めて、「なぜ同人誌が効率的なのか」「鈴木みそ氏が電子書籍で成功したのはどういう理屈なのか」をまとめてみたい。

同人誌が効率的である理由

銭 弐巻で述べられている理屈は、以下の通りである。

商業誌だと、新人作家の原稿料は1頁5000円なので、32頁で16万円、年間6回掲載で96万円となる。その他に、600円の単行本が1万部売れたとして、印税10%だと60万円なので、原稿料とあわせると、年収156万円になる。これを、ページ単価にならすと、8100円となるので、これが商業誌デビューを果たした新人漫画家の単価となる。

これに対して、同人誌の場合は、連載1回分40ページで1冊600円という価格設定だとすると、4000部すると仮定して、240万円の売上に費用として40万円の製作コストがかかるため、利益が200万円となる。これを年間6回とすると1200万円の収入となり、なんと、ページ単価5万円となる。

つまり、商業誌デビューを果たすのは、かなりの狭き門であるとは思うが、商業誌の新人作家よりも、同人作家の方がはるかに稼いでいる。ページ単価にして、5倍以上の差がある……という話なのである。

これをKDPに照らしてみた時にどうなるかは、ぜひ、鈴木みそ氏のブログを読んでみてほしい。

電子書籍出版の現状

その後、電子書籍市場の旨みに気がついた大手出版社が次々とKindleに進出し始めて、今では、Kindleのベストセラーは、そのほとんどが大手出版社によるKindle化された出版物という状況になってきている。

もともと、Kindleで売られていた電子書籍が紙でも出版されるという逆流現象まで起きていて、良書を読みたい自分としては、なんとも嬉しい状況ができつつあるが、一方で、鈴木みそ氏が自身で出版した「限界集落」でKindleベストセラーの上位を独占するというような面白い事態が起き難くなっているのは、残念な話だ。


ニッチを狙え!

電子書籍だが、果たして、電子書籍市場への個人の参入余地はないのであろうか。

ジャンルによっては、個人が電子書籍の特定ジャンルで上位を占めている例もあり、ニッチを狙えば、まだまだ、参入余地があるのではないか、というのが、私の見解だ。

これは、インターネットの登場以降の「個人でもメディアを持つことができるようになる」⇒「大手が参入始める」⇒「個人はニッチで勝負するようになる」の流れに酷似している。歴史は繰り返しているのである。

プラットフォームが整うと、個人でも大手と張り合うことができる!とよく勘違いされた論が展開されるが、実際のところは、かけられる時間や持てるスキルなどに差がありすぎて、個人が大手に真っ向勝負を挑むのは、無謀極まりないことだと思う。大手が入ってこないようなニッチな部分で勝負するのが、プラットフォームを利用して個人が個人として稼いで行く道なのではないだろうか。

ニッチの成功例を示す

将棋の世界においては、新しい戦法というのは、プロ棋士による日々の研究の中で生まれていると思われがちだが、実は、アマチュア将棋界から逆輸入された戦法も少なくはない。中飛車左穴熊や角交換四間飛車などがその一例であるが、実は、プロではあまり指されていないアマチュアで流行している戦法も多いのである。

そんなアマチュアによる戦法解説書(トマホーク最新研究)がKindleストアのベストセラーにランクインし続けているという状況があり、これを見て、ニッチであれば、まだまだ、個人の参入余地はありそうだ、という感覚になった。たぶん、作者の方もそれなりに収入を得ている。先述した同人誌の理屈で、印税率が高いので、ニッチでも充分に収入になるのだ。

どんな本でも売れる、というわけでもないであろうし、本を執筆するというのは、非常に労力が必要な作業であろうが、大手が持っている物量に対抗するためのニッチ戦略が有効なのは、確かであろうと思う。