『ひらけ駒!』の主人公、菊池宝少年の成長を追う~級位者時代②~

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振り飛車党には堪らないエピソードも登場

前回に引き続き、『ひらけ駒!』の全話レビューである。宝少年は将棋スクールでは級位者だが、将棋連盟主催の道場では初段になっているという描写もあり、級位者というには微妙な気もするのだが、このコーナーでは、連盟主催の将棋スクールで初段免状を授与される第15話までは、級位者という扱いで紹介する。

第1巻後半には、振り飛車党ならば堪らない藤井猛九段にスポットを当てるエピソードも登場するし、プロ棋士の逸話がちらちらと現れるのが興味深い。

宝君の級位者時代を追う(6話から10話まで)

6話から10話までの中でのハイライトは、「将棋サロン吉祥寺」での常連客と奨励会二段の少年のエピソード宝少年に将棋を教えてくれた青年との再会エピソードだろう。

棋力向上のスピードは、大人よりも子どもの方が圧倒的に早い。昔は駒落ちでも勝っていたのに、いつの間にか追い越されていく年長側の立場を思うと、なんとも言えない味わいがある。

第6話「将棋指しが負ける時」

舞台は「将棋サロン吉祥寺」だ。(今は移転して「将棋サロン荻窪」になっているので、2010年頃の話だということが分かる)

宝少年は矢沢さんに香落ちで負けた後、加藤さんというお爺さんに勝利するのだが、そのやり取りよりも、レゲエっぽい常連客と奨励会二段の少年の対局の方が目を引く。

「強くなったな。今どんくらいだ。奨励会」
「二段」

この奨励会員の子、中学二年生とのことなので、この年齢で奨励会二段だとすると、かなりの有望株だ。(誰か特定のモデルとなった奨励会員がいるのかと思い、2010年か2011年頃の二段を調べてみたが、わからなかった。敢えて挙げるなら、2011年時点で二段だった増田康宏四段だろうか。増田康弘四段は2011年当時13歳だった。たが、この話に登場する奨励会員の少年は、雰囲気的に増田康弘四段っぽくはない笑

実際に、将棋サロン荻窪においてそうなクッション。

昔からこの将棋道場は、奨励会員や元奨励会員の溜まり場だったようで、その雰囲気がうまく再現されている。

第7話「宝の恩師」

水曜子供スクールで宝少年が2級から1級に昇級する。将棋連盟運営のスクールで、連盟会館道場の段級とは差が生じる場合も多く、作中で語られるところによると、宝少年は道場では初段だそうだ。

水曜将棋スクール終了時の雰囲気が良く出ている

昔、宝少年に将棋を教えてくれた青年にコンビニの前で再会するのだが、仕事が忙しくて、最近は将棋を指してないとのこと。子供の成長と仕事が忙しくて将棋を指せていない自分。視点を変えてみると、また別の味わいがある。

第8話「ママの好きな棋士」

母子が訪れたのは神保町にあるアカシヤ書店。囲碁や将棋の本を専門に扱う古書店だ。

アカシヤ書店を訪れた方には分かるこの雰囲気。
棚には、棋書ばかり。

1990年6月号の将棋世界を見ながら会話する母子。羽生善治先生が竜王を奪取したのがこの頃なのだが、順位戦はまだC級。郷田真隆九段が四段に昇段したインタビューが載っているのが、この号で、菊池母が当時の美青年然とした郷田先生の写真に複雑な想いを感じるくだりは、少し笑える。

一部で話題になっていたひとコマ。郷田真隆九段の四段昇段時の写真の再現。

当時二冠だった久保利明先生がまだ奨励会にいる!と言う宝少年に母がまだこの時は14歳だからねーと返す会話の流れから、じゃあ、渡辺明竜王は何歳だったんだろう?という会話になり、5歳だったんだ!という発見。このコマは、渡辺明竜王が小学二年生の時に羽生善治三冠と撮ってもらったという写真の再現だ。

「このとき、5歳だった人が……将棋を覚えて……棋士になって」
「ここに載ってる人たちと、今タイトルを争ってるんだよね」

「このとき、5歳だった人が……将棋を覚えて……棋士になって、ここに載ってる人たちと、今タイトルを争ってるんだよね。なんかすごいわ。すごい世界。気が遠くなりそう……」という母の台詞がプロの将棋の世界を表している気がする。

第8話のタイトルの「ママの好きな棋士」は、故・村山聖九段のこと。母が『聖の青春』を読むシーンが出てくる。「これは宝のじゃないよ。ママの本」という結びの言葉に万感がこもっている。

第9話「振り飛車の後藤君」

将棋スクールの友達である後藤君にスポットがあたる回。

後藤君の回というよりは、藤井猛九段への愛が篭った振り飛車党大歓喜のエピソードだ。例の鰻屋のインタビューも紹介される。

ちなみに、菊池宝少年は、まったくの空気。宝少年が5連勝している描写は出てくるが、ここでの主役はあくまで後藤君だ。

「後藤君、君にとって振り飛車ってなんだ?」
「将棋そのものじゃないのか?」

炸裂する振り飛車愛!

それにしても、当時は広瀬章人先生も振り飛車党だったんだよなーと細かい部分で時代を感じてしまった。

第10話「母めざめる」

囲碁将棋チャンネルの「解けたら初段!七手詰め」をかけながら、掃除をする菊池母。息子に影響されて、すっかり将棋にはまっている様子が”あるある”な感じだ。

実際に、息子の影響で将棋を始める母親は多いようで、プロ棋士や奨励会員の母で将棋を指すようになったという方を、私も何名か知っている。

将棋にはまる母の姿。阿久津八段が七段だった頃の話だと分かる。

当然のように部屋に存在する将棋連盟販売のカレンダー。

本棚に『月下の棋士』や山本おさむ作の『』が並んでいるのが目を引いた。個人的には、『月下の棋士』は将棋マンガというよりは能條純一マンガだと思っているのだが、調べてみたら、監修に河口俊彦氏がついているんだな、と新たな発見があった。(『哭きの竜』が麻雀マンガではなく、能條マンガだ……と思うのと同じ理屈で考えていた)

棒銀戦法を覚えたにも関わらず、スマホアプリになかなか勝てずに悔しがる菊池母。

この母が、後々、もっと将棋にはまって、アマ団体戦に出場したりするようになる(2巻後半)と思うと、不思議な感じだ。タイトルの通り、目覚めてしまったわけだ。

まとめ

というわけで、第1巻に収録されている10話を追いかけるだけでも、だいぶ時間がかかってしまった。発売されている最終話の80話にたどり着くのは、いつになるのだろうか……という気もするが、好きなマンガなので、がんばって紹介していきたい。

次回紹介する予定の第2巻前半の11話から15話では、天才少女のみずきちゃん歳下のライバルの大樹君が登場し、いよいよ面白さが増してくる。