18世紀にチェスを指す機械人形があった!『謎のチェス指し人形「ターク」』

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謎のチェス指し人形「ターク」

評価:4.0 (★★★★☆)

  • 著者は『エコノミスト』誌のテクノロジー担当ライター
  • オートマトンの数々や当時の雰囲気が魅力的に紹介される
  • 現代のコンピュータチェスとの比較が面白い

著者について

著者のトム・スタンデージは、『エコノミスト』誌のテクノロジー担当ライターであり、『エコノミスト』誌のウェブ版の編集長も務めたジャーナリストだ。

その著書には、『ヴィクトリア朝時代のインターネット』『Writing on the Wall: Social Media – The First 2,000 Years』がある。

ヴィクトリア朝時代のインターネット』では、電子通信網が1830年代には整備され始めており、当時の電信の発明は、今日のインターネットの発明よりもインパクトのあるものだったということがさまざまな例と共に述べられているそうだ。

また、『Writing on the Wall: Social Media – The First 2,000 Years』の方は、ソーシャルメディア2000年史という体で、「ソーシャルメディアは昔からあった」という主張がされているのではないか、と思われる。邦訳が楽しみでならない。

これらの著書に共通しているのは、その時代におけるテクノロジーの変革が現代と対比できるような形で分析されていることであり、『ヴィクトリア朝時代のインターネット』ではインターネットが、『Writing on the Wall: Social Media – The First 2,000 Years』ではソーシャルメディアがテーマ。

本書のテーマは、謎の自動人形

そして、今回、紹介するのが『謎のチェス指し人形「ターク」』である。

タークとは、1770年頃に宮廷の機械技術者のヴォルフガング・フォン・ケンペレン(ハンガリーの官吏だった)によって発表された自動人形(オートマトン)だ。

その人形の風貌がトルコ人を模したものであったことから、「ターク」と呼ばれた。

この人形は、チェスの対局ができるカラクリ人形として、発表されたのだが、その対局の様子は、相手の指し手に応じた駒の動きをするだけでなく、対局相手のチェスプレイヤーがルールにない駒の動きをさせると、頭を横に振って、相手の駒の位置を元に戻すということもしてのける。

人が中で操作でもしていない限りは、当時の技術では、自動でチェスの対局などできるわけはない、というのが現代の常識だと思うが、当時の人々にとっては、そうではなかったようで、これが興味深い。

本書で紹介される魅力的なオートマトン

ケンペレンは、音声合成機(話す機械)の発明でも有名で、こちらは正真正銘の本物。

当時の人々に、自動でチェスを指す人形がオートマトンとして受け入れられていたのは、現代の視点で見ても、驚くべき機能を有するオートマトンが公開されていたからだと思われる。

本の冒頭で紹介されるオートマトンの数々は、この本の見所のひとつだ。

天文現象を表現した精巧な時計に始まり、文を書いたり、図を描いたり、音楽を奏でるオートマトンが製作されていたことが紹介されている。

オートマトンの第一人者として有名なフランスのジャック・ド・ヴォーカンソンの製作物として、この本で紹介されている人工アヒルについて、紹介しておきたいが、この時代にこんなものがあったことが信じられないような作品だ。

「銅メッキをかけた人工アヒルで、生きているアヒルのように飲み、食べ、鳴き、水上で羽ばたき、食物を消化する」という代物だ。観客に向けて、クビを伸ばして、穀物をもらうと、それを飲み込んで、消化して、糞をすることができたという。

「ターク」の話

そして、女帝マリア・テレジアがケンペレンに命じて作らせた「ターク」の話だ。

1769年秋にマリア・テレジアの宮廷で開催された科学を使った奇術ショーに招待されたケンペレンは、そのフランス人奇術師の慇懃無礼な態度に腹を立て、自分であればもっと面白い機械を作ってみせると宣言してしまう。

これが、「ターク」誕生のきっかけだった。

マリア・テレジアの元でのお披露目の後、この「ターク」は、ベンジャミン・フランクリンとチェスを指したり、(ケンペレン死後のことだが)ナポレオンとの対局があったり、と数奇な運命を辿ることになるわけだが、その中で、この「ターク」の仕掛けがどうなっているのかを思い巡らせ、謎解きに挑む人々の描写がとにかく面白い。

これは本編を読んでいただきたい部分だ。

現代のチェス指しコンピュータとの対比の妙

謎のチェス指し人形「ターク」』の後半では、チューリング・テストで有名な数学者のアラン・チューリングも登場し、彼がチェスを指すコンピューターに興味を持っていたことに触れられる。

さらには、IBM製のコンピュータが時のチェス・チャンピョンであったカスパロフに勝利するという歴史的な出来事が紹介されるわけだが、この時に、カスパロフが自分が対局した相手が本当にコンピューターであったのか、疑問に思う……というくだりが、チェス指し人形「ターク」とこの人形を取り巻く様々な人たちとの対比になっており、興味深かった。

予断になるが、以下のWiredの記事も読むと、更に感慨が深まる。

http://wired.jp/2012/10/03/deep-blue-computer-bug

この作品に登場したチェスを指すオートマトン「ターク」は、種も仕掛けもある奇術のようなものであったかもしれないが、そのオートマトンの存在に右往左往する人々の姿は普遍的なものなのかもしれない。