電子工作コメディ漫画『ハルロック』の魅力に迫る

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ハルロック(1) (モーニングコミックス)

久しぶりに『ハルロック』を読み直したのだけれど、主人公である向阪晴(さきさか はる)の天然可愛さが炸裂しており、やっぱり面白い作品だと思った。

ハルロック』のストーリーとしては、この晴ちゃんが生み出す奇想天外な発明品を中心に話が進んでいくコメディという感じではあるのだけれど、ちょっとずれた主人公の巻き起こす騒動……と言う部分では、西餅の前作『犬神もっこす』とも通じるものがある。

もっとも、主人公の向阪晴が女子であるということもあり、天然萌え的な要素が強く、結果として『犬神もっこす』とは全く違った印象になっているのが興味深い。

分解魔だったハルを取り巻く物語

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主人公の向阪晴(さきさか はる)は、幼い頃から電子機器を分解するのが大好きで、自宅のDVDデッキやら近所の家のインターホンやらを分解し、親にドライバーを取り上げられる。

その後、「ドライバーかしてくださーい」とドライバーを求めて近所をうろつく「ドライバー少女」として噂になる。晴ちゃんが5才の時の逸話である。

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このあたりのくだりから、とにかく、笑えるわけだが、そんな過去を忘れていた高校生の時に、電子工作の世界を知り、そこからは電子工作熱に取り付かれた晴ちゃんが作り出す発明品の数々が巻き起こすトラブルに家族や友人たちが巻き込まれる……という1話完結型のストーリーになっている。

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登場人物の紹介

主人公の晴ちゃんも、個性的なのだけれど、その周囲を固める登場人物も、とにかく魅力的だ。

真下 六祐(ましも ろくすけ)

晴ちゃんの幼なじみの真下六祐君は、晴に分解されたいという願望を持っているストーカー気質の高校生。元は、神童と呼ばれる程、頭が良かったにも関わらず、晴ちゃんに恋したことで、落ちこぼれる……という因果な存在。彼のフェチは強烈で、晴に分解される妄想をしては、よく鼻血を出している。

今、気がついたのだけれど、第4巻の表紙、せっかく、綺麗な表紙なのに、よく見たら、六祐君、鼻血を出していた。

ハルロック(4) (モーニングコミックス)

うに先輩

天才小学生のうに先輩。本名は不明だけれど、晴ちゃんの師匠的存在が小学生というのも面白い。その電子工作に対する知識の深さから、晴ちゃんから尊敬をこめて(イカよりも高級な)うに先輩と呼ばれるようになった。

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改造癖がある……一般的には変な小学生なはずなのだが、周囲のメンバーも強烈な個性を持っていることと、うに先輩自体が冷静なキャラなので、常識人っぽく見えるから不思議だ。

河原崎 数一(かわらざき かずいち)

河原崎数一は、高校時代に晴ちゃんを電子工作の世界に引き込んだ恩師なのだけれど、現在は、真下六祐君の通う浅草橋工業高校の教師になっている。

電子工作大好き人間で、隙あらば電子工作布教活動を行う。

大学での交友関係

飲み会で「ぼっち」だったことをきっかけに晴と知り合った小松さん、野球選手と結婚することが目標と女子力を磨き続ける葛西さんも面白いが、小松さんが想いを寄せる真面目そうな佃君もちょっと変わった個性を持っており、良い味を出している。

向阪晴による奇想天外な発明品の数々

個性的な登場人物たちも『ハルロック』の魅力ではあるけれど、やはり、この作品は、晴ちゃんの発明品なくしては、語れない。ここでは、そんなトンデモな発明品の数々の中から、いくつかピックアップして紹介してみたい。

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地獄見せマシーン

うに先輩のお祖母ちゃんが骨折で入院したので、これを元気づけようという発明案。

励ますよりも、三途の川をチラ見せするくらいが刺激になって元気になるんじゃないか、という発想だったわけだが、うに先輩の反対により実現はしなかった。

代わりに制作されたお喋りする”くまのぬいぐるみ”は、最初は良い感じだったのだけれど、会話の精度が低かったため、これも、思わぬ展開になる。

ゴキブリ探知機

お母さんに無断で新品のホームベーカリーを生ゴミ処理機に改造してしまった晴ちゃんが、お詫びとして、ゴキブリ駆除をする機械を頼まれて作った。

結果、ゴキブリは探知できるのだけれど、退治できない……という「ゴキブリがいるのがわかるだけの装置」が完成した。晴ちゃんはその出来栄えに満足している様子だが、駆除できない時点で、お母さんにとっては、無用の機械。

呼ぶと「はーい」と返事するリモコン

実は、片づけが苦手で、リモコンがどこにいったか分からなくなったお母さんのために作った電子工作。

電池切れで返事してくれないという問題が起きたため、電池切れを通知するように改造するのだが、その通知方法に問題があり、カオスな発明品になるくだりは、必見だと思う。

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その他にも……

他にも「心拍数が上がれば上がるほど、脅かされるお化け屋敷」「ヤンキーを撃退する電子工作」など、奇想天外な工作の数々が登場する。いや、どうやったら、こんな発想ができるのだろうと笑えてくる。

起業マンガとしての『ハルロック』

第3巻の中盤で、「運動しないと開かない食料棚」を発明した際に、同級生の葛西さんが「向阪さんにしては、いい発明だったよ。あの食料棚ってさ、下手したら、女子に売れそうじゃね?」と評価したのだが、これを受けて、「そういう事を仕事にするって道……絶対不可能ってわけではないのかな……」と晴ちゃんが呟いたのは、自分の電子工作をどうすれば人の役に立てるのかを考え始めた発露だ。

向阪晴ちゃんの天然可愛さと、奇想天外な発明品に巻き込まれる周囲の人たち……という構図のコメディだったはずなのに、その後、1人の女性エンジニアとの出会いが『ハルロック』のストーリーを思わぬ方向に導いていく。「迷っとる時間は全部行動に当てた方がええと思うねん」という信条を持つ今村さんは、女性プログラマーとして働いて6年目。

ネコの位置を加速度センサーなどで把握することで、ネコの行動がTwitterに呟かれるという「猫ツイッター」がきっかけで晴ちゃんに興味を持ち、晴ちゃんに起業を勧めたのが彼女だ。

ここからストーリーは一気に進み、それまでは周囲の人たちを混乱させることが多かった晴ちゃんの発明品が、売り物になるような実用性のあるものに変化していくのが面白い。

ただ好きだから……という理由だけで、電子工作をしていた晴ちゃんが、それを仕事にしてみたい!と決意し、試行錯誤していく様子は、晴ちゃんの成長譚にもなっている。

その後、とにかく行動していくことで道が開け、晴ちゃんだけでなく、メンバーの成長(特に真下六祐君)もあって、最終話では、これコメディだったよね?と確認したくなるような感動を覚えさせられるのだから、これは、スゴいマンガだ。

コメディ漫画としても面白く、更に、その面白さを損なうことなく、晴ちゃんの起業という自己実現を描ききった『ハルロック』は名作だと思う。

電子工作?なにそれ?という人にこそ、一度、読んでみて欲しい。